日本剣道形は真剣勝負を通じて生み出された、剣道以前の「剣術」の技と精神を伝えるものでもあります。
そこでは、普段の竹刀稽古で意識する以上の緊張感と気魄(きはく)が要求され、それゆえに剣道にとってもっとも大切な「心」を練ることができるとされています。昇段審査のためとしか捉えられないのは非常にもったいないことです。
ですが、どうしたら竹刀を使った試合に活かせるのか? と疑問に思うかもしれませんので、昇段審査に役立てるのはもちろん、日本剣道形「六本目」の動作を解説しつつ、その意味を考えながらどのように竹刀稽古に応用すべきかについてお伝えします。
日本剣道形六本目の概要
六本目は打太刀は「中段の構え」、仕太刀は「下段の構え」から始まります。
双方三歩進んだところで、仕太刀は気攻めとともに剣先を中段に上げていき、打太刀はこれを抑えきれずに下がって諸手左上段に構えます。
仕太刀はそこにすかさず攻め込んでいくので、打太刀は今度は下がりながら中段に下ろして、相中段の形になります。
打太刀が小さく鋭く小手を打ってくるので、仕太刀はこれをすり上げて打太刀の小手を打ちます。
打太刀は斜め後ろに下がって負けた姿勢を示すので、仕太刀は追い込むようにして諸手左上段に構え、残心をします。お互いに中段に合わせて元の位置へと戻り、形を終えます。
動画の解説はこちらを参考にするといいでしょう。よくある間違いも解説されていて参考になります。後半に高画質の日本剣道連盟が公開している動画がありますので、そちらも参考にしてみてください。
六本目、打太刀の動き
打太刀は中段の構えから三歩進み、一足一刀の間合いになるや仕太刀が激しい気攻めで剣先を中段に上げてきます。
打太刀はこれを抑えるつもりで剣先に気を込めて迎えますが、耐え切れずに右足を引き、諸手左上段にとります。
しかし、即座に仕太刀が攻め込んでくるため今度は左足を引いて中段に下ろし、相中段で剣先を合わせます。
打太刀は追い詰められた状態から、機を見て「ヤー」の掛け声とともに仕太刀の小手に小さく鋭く打ち込みます。
しかし逆にすり上げ小手を打たれるので、自身の左斜め後ろに大きく下がり、勝敗が決したことを示します。
仕太刀は諸手左上段にとって残心を示すので、その後中段に上げて元の位置に戻り、形を終えます。
六本目、仕太刀の動き
仕太刀は三歩進んで、下から攻め上げるような激しい気魄(きはく)で剣先を中段に上げていきます。
中段に構えていた打太刀は、このプレッシャーに耐え切れずに諸手左上段をとって引くので、そこにすかさず送り足で攻め込んで反撃の態勢を許さないようにします。
打太刀は仕太刀の攻めを受けて即座に中段に下ろし、追い詰められた末に状況を打開すべく、苦しい状態から小さく鋭く小手を打ってきます。
仕太刀はこれをすり上げて、やはり小さく鋭く「トー」の掛け声とともに打太刀の小手を打ちます。
打太刀が負けを認めて斜め後ろに下がるところを、追撃する心積もりで左足を出して諸手左上段にとって残心。互いに中段に合わせて元の位置に戻り、形を終えます。
六本目に込められた意味とは
日本剣道形六本目は、「攻め合い」の妙が凝縮されたとても味わい深い形です。
しかし、竹刀を用いた稽古ではなかなか実感しにくい攻防の呼吸があるため、形式的な動作に終始しないような心がけが大切となります。
打太刀を段階的に追い詰め、苦し紛れの不十分な打ち込みを誘ってこれを捌くというのは、いわゆる「三殺法」に通じる極意でもあります。
これを五行の理論に当てはめると中段は「水」、下段は「土」の性質であるため、土が水を堰き止めるということから「土剋水(どこくすい)」という関係性にあります。
さらに上段(火)にとった打太刀を中段(水)で攻めることから「水剋火(すいこくか)」となり、五行の相性においても終始、仕太刀が優位になるような戦術を表しています。
竹刀での応用について
六本目の技を現代剣道に当てはめると、「小手すり上げ小手」となります。
珍しい決まり手であるといえますが、高速での応酬は竹刀での打ち合いにも十分通じるところがあり、手の内の鍛錬と合わせてよく稽古しておきたいものです。
お手本となる日本剣道形六本目の動画
日本剣道連盟による動画をご紹介します。最初から最後まで演武している動画ですが、六本目の開始から再生されるようにしています。
まとめ
六本目は、小さく鋭い技の打ち合いが竹刀での攻防を思わせる、現代剣道にとっても理解しやすい技で構成されています。
しかし、この形の真髄は高度な気攻めで相手を弱体化させ、やがて制していくという一連のプロセスにこそあるのです。
形を形式だけで終わらせないよう、その真意を読み取って真剣勝負の呼吸を疑似体験するという心がけが、剣道にさらなる深みを与えることになるでしょう。
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