日本剣道形には、現代の竹刀剣道では滅多に見ることができないような決まり手や戦術が豊富に含まれています。
それらは刀を使った術理を伝えるものであり、言うまでもなく剣道の源流として高い文化的な価値を持ったものでもあります。
しかし、それらには竹刀での技にも十分に応用できる理合(りあい)が込められており、その教えをよく理解して稽古することで剣道のより深い部分へと導いてくれるものです。
ここでは日本剣道形「三本目」の動作を解説しつつ、その意味を考えながらどのように竹刀稽古に応用すべきかについてお伝えします。
日本剣道形三本目の概要
三本目は打太刀・仕太刀両者とも、下段に構える「相下段」から形が始まります。
双方下段に構えたまま間合いに入るや、両者徐々に剣先を上げていき中段になってせめぎ合います。
打太刀は機を見て仕太刀の水月に突きを入れますが、仕太刀はこれを引き込むようにさばいて、逆に打太刀の胸を突き、そのまま間合いを詰めて追い込んでいき、戦意をくじいて完封します。
残心を示しながら元の位置へと戻り、形を終えます。
こちらの動画が参考になるかと思います。後半にお手本となる日本剣道連盟による三本目の動画をご紹介します。
三本目、打太刀の動き
下段の構えから三歩進み、気で圧する心積もりで中段まで剣先を上げていき、機を見て「ヤー」の発声とともに仕太刀の水月を突きます。
このときの突きは刃先をやや右斜め下に角度をつけた、「表突き」の要領で行います。
仕太刀に突きをなやされ、逆に突き返されますので、打太刀は右足を引いて自然体となり、裏鎬(うらしのぎ)で払うように突きを受けます。
続いてもう一撃突かれますので、今度は左足を引いて自然体となり、表鎬(おもてしのぎ)を使って突きを払い受けます。
そのまま仕太刀の追撃に負ける形で右・左・右と足をさばいて後退しながら剣先を下ろしていき、顔の中心に仕太刀の剣先をつけられて勝負が決まります。
剣先を上げ始めながら仕太刀とともに元の位置へと戻っていき、形を終えます。
三本目、仕太刀の動き
下段の構えから三歩進み、打太刀に気負けしないよう、充実した気勢で徐々に中段へと剣先を上げていきます。
機を見て打太刀が表突きでこちらの水月を狙ってくるので、左足から大きく下がりながら刀を手元にやや引き込み、刃先を右斜め下に向けて打太刀の突きの威力を相殺します。
すかさず右足を踏み込んで、刃先を真下に向けた「前突き」の要領で打太刀の胸を狙い、さらに左足を踏み込んで突きの気勢を示します。
連続した二本の突きを打太刀が払い受ける動作をしますので、そのまま右・左・右と加速するように小足で攻め込み、反撃を許さないようプレッシャーをかけつつ剣先を顔の中心へと上げていきます。
残心を示し、打太刀が剣先を上げてきたところを見計らって左足から下がり、元の位置へと戻って形を終えます。
三本目に込められた意味とは
相下段からの突きの応酬という三本目は、動作も複雑でタイミングもとりにくく、剣道形の中でも非常に難しい技であるといわれています。
しかし、相手の攻撃の威力を無効化する技法や、強力な攻めによって反撃をさせずに制圧するという戦術は、まさしく「達人」の高い境地を表しているといえます。
また、刀の側面の厚みがある部分である「鎬(しのぎ)」をうまく使って攻撃や防御を行うことも教えており、形状は違えど竹刀でも取り入れることを意識したい技です。
また、この三本目は相手を一度も切り付けず、攻めのみによって無力化する「位詰め」の境地を体現しています。
相手を傷付けずに戦いを収めるという、闘争を超越した剣道の高い精神性を表現した形であるといえるでしょう。
竹刀での応用について
「竹刀にも鎬(しのぎ)があるように遣え(つかえ)」ということわざがあるように、三本目はすり込み・すり上げ・払い等々、鎬(しのぎ)にあたる部分を有効に使った技法を修得するのにも適した形といえます。
また、相手の突きを引き込んで威力を相殺しつつ、そのまま突きを返す技を「入れ突き」と呼んでおり、修得難易度は高いものの実際の試合でも使用できる達人は存在しています。
さらに体攻め・剣攻め・気攻めが一致した「位詰め」を学ぶことで、竹刀を用いても相手に圧力をかけていけるような気勢を養うことができます。
手本となる日本剣道形三本目の動画
全日本剣道選手権大会の公開演武の動画です。三本目の開始直前から再生されるようにしています。
まとめ
相下段で始まる日本剣道形三本目は、一説には「天・人・地」の「地」を象徴している技とされています。
一本目では一刀両断で勝負を決し、二本目では小手切りで相手の戦闘能力だけを奪い、そしてこの三本目では相手を傷付けることなく「位詰め」で完封します。
つまり一本目から三本目までを通して、剣道が到達すべき「活人剣」の境地にいたる道筋を示しており、そのような哲学を十分に学び取る心構えが必要です。
突きのなやし合いという異色の形である三本目には、このような深い意味合いがあるため、技だけではなくその精神を鍛えるという気概を持って稽古を積みたいものです。
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