竹刀を握る手の内は柔軟かつ強靭であることが求められるもの。剣道の技のなかには、特に竹刀をやわらかく握っておかないと使えない技、というものもあります。
それが「巻き技」です。手の内のやわらかさを最大限に発揮するのが「巻き技」で、仕掛け技を行う際の「崩し」の一種として使われてきました。
剣道における巻き技は「日本剣道形」にも、そして「木刀による剣道基本技稽古法」にも見られない技法ですが、いざというときに強力な武器となるはずです。
ここでは、そんな巻き技について解説します。
巻き技とは
自身の竹刀で相手の竹刀を絡めるようにして「巻き」、中心線の防御を外して打ち込む技を「巻き技」といいます。
表からでも裏からでもできますが、相手の竹刀を上下どちらの方向に崩すかによって「巻き落とし」と「巻き上げ」の二種類に分類することができます。
以下に、そんな巻き技のバリエーションをいくつか挙げてみましょう。
巻き落とし面
表からであれば反時計回りに、裏からであれば時計回りに相手の竹刀を巻き、下方向に崩す技を「巻き落とし」といいます。
竹刀の中心線が下へと外れるため、がら空きになった面を狙いにいくのがセオリーとなります。
十分に攻めをきかせて一歩踏み込みながら巻き落とすことがポイントで、相手の竹刀の「鍔元近く」を狙うようにして巻くことがコツともいわれています。
自身の竹刀の剣先が描く弧は約180度で、竹刀を絡めながら腰を入れて、瞬間的に強く巻き落とすのが成功の秘訣です。
巻き落とした後は当然ながら自身の竹刀も下へと下がりますが、それでも中心線を外さないことで即座に面へと伸びることが可能となります。
巻き上げ面
巻き落しとは逆方向、つまり上の方へと相手の竹刀を崩すのが「巻き上げ」です。
上といっても真上ではなく、やや斜め上に向かって巻き上げるのが正しい巻き上げ技となります。
表から巻き上げた場合は、反時計回りにおおむね300度、12時までを指す丸時計でいえば最後は2時くらいの方向へと相手の竹刀が向くことになります。
同様に、裏から巻き上げた場合は時計の10時くらいを指すように相手の竹刀が外れるため、隙のできた面に打ち込むのが「巻き上げ面」です。
完全に決まれば相手の片手が離れてしまったり、あるいは竹刀そのものが飛んでしまったりすることもある強力な技です。
過去の全日本選手権でも巻き上げが見事に決まって宙天高く竹刀が飛んでいってしまったという事例があります(実際の映像は後述)。
いずれにせよ、両者ともに相当やわらかい手の内がないと実現しない技でもあります。
巻き上げ小手
巻き上げ面と同様の技法で相手の竹刀を巻き、小手が空けばそこを打つという技です。
しかし、打突部位としては圧倒的に「右小手」が多いというルール上の特性から、表から巻き上げて相手の竹刀を自身から向かって右方向に崩した状態からの「表巻き上げ」が適しているといえるでしょう。
もちろん、裏から巻き上げて相手が面への防御反応で手元を浮かせたときに小手を打つ、という方法もあります。
巻き上げ胴
巻き上げの面や小手と基本的に同じですが、相手の胴が十分に空くか、あるいは面をかばって頭上に竹刀をかざすなどの反応を示したときに胴を打ちます。
表から巻き上げれば右胴が、裏から巻き上げれば左胴(逆胴)が空くはずなので、状況に合わせて最適な部位を捉える稽古が必要です。
巻き技の注意点
「上げ」と「落とし」との違いに関わらず、巻き終わった直後には思ったよりも相手に接近していることになりがちです。
したがって、間合いを正確に把握して打ち込みが深くなりすぎないよう心がけることが肝要です。
巻き技の動画集
最後に巻き技の動画をいくつかご紹介します。
巻き上げで竹刀が飛ばされた試合の動画
こちらは巻き上げが見事に決まった例です。竹刀が飛んでいってしまいます。お互いに教士八段という試合でも見られるのは興味深いところです。
見事な巻き上げ技の例。2015年の茨城県剣道祭、八段演武より
巻き落としで相手を翻弄
巻き落とし
巻き落とし小手
裏から相手の竹刀を右斜め下に巻き落として片手をはずし、その結果空いた小手を打突しています。ここでもやはり柔軟な手の内がカギを握ります。
裏から巻き落として小手(スロー動画)
まとめ
巻き技は現代剣道ではあまり見られなくなった技のひとつともいわれています。
しかし、柔軟な手の内と相手の竹刀操作の間隙をつく呼吸の読みが必要とされる高度な技法なため、稽古することそのものにも価値のある技です。
あまり使われないということは、その分相手の意表をつくことにもなります。その意味では「巻き」は普段の稽古でも積極的に練習しておきたい技ではあります。
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